10.推理が終わり……

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私は気分が全然冴えなかった。 奈落の底に落ちていくかのように、急速に憂鬱へと向かっていくのを抑えることが出来ないのだ。 直樹にこれを読ませる前に決めた覚悟が、不意に私の胸を掠める。 見る見るうちに、胸に広がる不安感は煙のように膨らんでいき、再びその大部分を占めてしまっていた。 胸はざわざわと音を立て始めていく。 そうだ、私は直樹にこれを読ませる覚悟をしたんだった。 ……そう。 私は今、とある巨大な問題に直面をしている。 心の深遠にはその意識はしっかりと残されていたのだが、直樹とのやり取りが私の中からその意識を和らげさせていた。 作者対探偵。 自分が書いた作品を読んでもらった後に推理をしてもらう。 直樹とは今までの間、この遊戯を幾度となく繰り返してきていた。 勝敗の判定は非常に曖昧でいつも引き分けだった。 犯人や証拠が当たっていても、私が用意した細部までの解答を、完璧に答えることが出来た時は今までに一回もなかったからだ。 だから今日は、初めて彼に花を持たせてあげた形になる。 私が用意した解答への筋道通りに彼は推理を展開し、途中に仕掛けられた落とし穴も見事に回避した。 本日ばかりは彼に脱帽で、素直に敗北を認めざるを得ない。 ……だが。 『これはあくまでも始まりに過ぎない』 ということまで、彼には看破されているのであろうか? そしておそらく、 『この遊戯も今日で最後』 だということも……。 彼は全てに気が付いているのか? ……雅美のM。 ……『Mの予言』 直樹の力を借りずとも、自作の小説のタイトルは自然と浮かんできていた。 そして私の頭の中に、それに呼応するかのような声が響き渡る。
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