11.真相、そして始まり

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押し黙ってこうべを垂れた私を、直樹が心配そうな顔で見ている。 突然、カランカランというベルの音がして、喫茶店の入口のドアが開いた。 「いらっしゃいませ!」 透き通る声と笑顔で、Aちゃんが歓迎の意を表している。 その次の瞬間には、Aちゃんの顔はハッとしたような驚きの表情に変わっていた。 店の中に入ってきたのは、彼女よりも更にずっと美しい女の子だったからだ。 Aちゃんはその身を硬直させ、その女の子に見惚れていた。 女の子の正体は云うまでもない。 それは紅子だった。 「あー! 武! 直樹! こんな所にいたのね!」 紅子は私達のもとに小走りで走ってきた。 その甘い香りを周囲に漂わせながら。 「どこ行ってたのよ! もう。探したんだからね? 武は同窓会に来なかったし、直樹は途中で抜けるし。なんなのよ?」 紅子は頬を膨らませながらそう云った。 しかしその顔を見ただけでは、本気で怒っているような雰囲気をこちらには思わせない。 その中からは、拗ねたような子供っぽさも感じることが出来るからだ。 これは美少女が成せる技なのであろうか? 私なんて平常心でも、他人からはいつも怒っているように見られているというのに。 私は自分の外見に対するコンプレックスから、こと顔面の印象についての話には特にうるさい。 どのように他人からは見られているのかが、とても気になってしまうのだ。 直樹の方を見ると、彼はばつの悪そうな表情を浮かべていた。 そう、今日は小説の設定と同じく卓球部の同窓会があったのだ。 私はそれには参加せず、直樹には途中で抜け出してきてもらうように云ってあった。 結局遅刻をして、ここに来たのは私の方が後であったが。 私は二人の為に、アイスコーヒーを二杯注文した。 二人は当たり前のように、ガムシロとミルクを大量に入れている。 子供にはやはりブラックは早すぎるのであろうか? ……私ははたしてどうだっただろう? コーヒーを苦いと思ったことなんて、今まで一回もないんじゃないかな……? それを思うと、私は切なくなる。
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