11.真相、そして始まり

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コーヒーを飲み終えた後、暫くの間は三人の談笑が続いた。 けれども私は、相変わらず気分の方が優れなかったので、会話をそこまで楽しむことは出来なかった。 そして不意に直樹が私に尋ねてきた。 「なあ武? 実際は咲耶にどんな予言をされたんだ?」 そんなことを聞かれて私は戸惑った。 なぜって? 私はとっくに覚悟を決めているからだ。 「さあね。なんだったっけ」 ……嘘だ。 全くの嘘。 そんなこと忘れるわけがない。 本当はしっかりと覚えている。 しかし、この場ではそうやって呆けることしか私には出来ない。 まさか咲耶に、 『武先生が今書いている小説の内容は、そのうち現実に起こることになりますよ』 などと予言されていたことを、なぜここで云うことが出来る? 私は、改めてあの寂しげな山奥に今眠っている咲耶に対して複雑な気分になった。 殺意のキッカケはなんだったのだろう? そっちのことはもう殆ど思い出せない。 直樹の云う通り、教師としての破滅的な予言を、私は彼女からされたのであろうか? 気がついた時には、既に彼女を殺してしまっていた。 そして突然襲ってきた下腹部のあの痛み。 長年付き合ってきた、女の子の日のアレ。 この時だけしか、自分自身を女だと思うことが出来なかった。 目の前が真っ白になり、下半身からは真っ赤な鮮血が流れだし、そして……。 ああ……。 私は、やはり紅子を愛してなどいなかったのであろう。 本当に愛していたのであれば、 なぜ、『彼女に罪をなすり付けるような工作』を現場に施したのだ?
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