82人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ? 武。咲耶と連絡が取れないの。心配よ。様子を見に行きましょう?」
紅子が笑顔で私に云ってきた。
ああ、やはりこうなるのか。
咲耶の顔と予言が、私の頭の中にちらついて離れない。
離れてくれない。
彼女の予言からは逃れることは出来ないのか。
ここで咲耶の様子を見にいくことを断れば、彼女の予言に抗うことが出来る。
……しかし、私は覚悟を決めている。
今は罪を逃れるつもりなどはない。
推理小説の登場人物の一人のようになりきり、その役割を演じきりたい。
不思議とそんな気持ちになっているのだ。
罪を逃れるつもりならば、あの家ごと今から燃やしたっていいんだ。
それですべての証拠は隠滅出来る。
別に山火事が起ころうが、そんなことは私にとってはどうでもいいのだから。
………………あ。
ああ……。
そ、そういえば、あ、あの小説の冒頭には、
『雲行きが怪しくて、雨が降りそう』
……そんなような描写がなかったか?
私は精気が抜け落ちるような深い溜め息をついた。
そんな工作を働いた所で、あの内容通りに天候に阻害されてしまうのだろう。
運命はきっと変えられない。
最初のコメントを投稿しよう!