第1章

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シャラッとレールを擦る金具の音が聞こえた。 今は朝だろうか、夜だろうか。 眠る前の記憶は、確か夜ご飯のシチューを食べたのが最後だ。 夜ご飯は毎日決まって6時だから、そこから数時間しか経っていなければ夜。 12時間以上寝ていたのなら次の日の朝だ。 「おはよう、サキちゃん。よく眠れたかな?」 どうやら12時間以上眠っていたらしい。 聞きなれた安田さんの声に、「おはようございます。ぐっすり眠れたみたいです」と明るく返した。 「敬語はいい加減やめてほしいなぁ」 そんな声が顔のすぐそばで聞こえたかと思うと、唇にチュッとだけ何かが触れた。 きっと彼は私に笑顔を向けてくれている。 その顔をじっくりと見つめ返すことができたらいいのに…。 私は口元に笑みを浮かべながら、頭部に何重にも巻きつけられた包帯をそっと手で撫でた。
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