第1章

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部隊長が西側へ到着すると、紳士然とした男が、つば付きの帽子を手に持って立っていた。 その雰囲気は托鉢僧のようにも、怪しげなペテン師、あるいはそこそ悪魔のようにも感じられた。 その周りを幾重にも兵士が取り囲んでいる。 「私はここの指揮官である。お前は何者か」 部隊長がそう言うと、男が少し乾いてすぼまった口を開いて 「私は怪しいものではありません」 とだけ言った。 いや怪しい。 刹那のうちに部隊長は素性の知れない男の心を読みにかかった。 そして後悔した。 心を読み始めてコンマ数秒。 膨大な量の知識が頭を駆け巡った。 そして夥しい思考や思想、おぞましい心象風景、妄想の類、美しい景色、規範や規律の数々が彼女の脳を侵し始めた。 一秒と経たぬうちに彼女の頭は沸騰し、そして破裂した。 紳士は驚いて周りを見た。 周囲の兵士は臨戦態勢となりすぐさま読心を開始した。 兵士が次々と倒れる。 一部の兵士は増援を呼び、増援もまた倒れた兵士と同じ道を辿った。 幸い、逃げ出したものも多かったものの砦には誰もいなくなった。 哲学者の老人を除いて。 老人は憐れみを倒れた者たちにむけた。 彼は少しばかり黙祷した後、疫病か何かでこの者たちは倒れたのだと解釈した。 「暫く俗世から離れていて、わからなかったが疫病が流行っているとは」 老人はそう呟くと、新人類に支配されている別の街の方へ歩き始めた。 辺境のこの地で疫病が流行るのは非常に大変なことだ。 幸運にも私は未だ発症していないようだし、彼らの様子を見ても潜伏期間は長くないから安全だ。 そうとなれば、早く近くの街の人々へこの事を知らせてあげねば。 そう考えて街へ向かった老人の行動は、まさに聖人そのものであった。 しかし新人類にとっては悪魔の所業であったことは、もはや言うまでもない。
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