第1章

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何か悪いことが起こる時は、大体昼間だ。 夜は寝ている。だから昼。 でも、夜に何も起こらないわけじゃない。 大人の世界では、夜こそ変なことが起こる。 地球の影の中では不思議なことが起こる。 兄が姉になったりするし、 お世辞にもイケてると言えない部長が、 ヴィジュアル系のリーダーになったりする。 夜は不思議な時間だ。 そんな不思議な時間が、私にくれた教訓。 それは、私の彼がまだ、彼だった時の話だ。 私は彼と付き合っていた。 彼は長身痩躯で帽子が似合う人だった。 決して映えるわけではなかったが、 垢抜けていない性格と相まって、へんに尖っていなくて、 人あたりの良い優しい人だった。 どんなに遅い時間でも、飲みに誘えば来てくれた。 決して甘えるのが上手ではなかった私に、 気持ちよく甘えさせてくれた。 駄々にもおねだりにも答えてくれた。 でも、どうしても駄目なことには、爪を立てて見せ、 注意を促してくれた。 99%の優しさに、1%の緊張というスパイス。 そのスパイスを絶妙に織り交ぜ提供する。 気持ちの良い相手でちょっとハマりそうだった。 でも、彼は一切手を出してこなかった。 こちらがハグをして欲しくて、両手を広げているのに、 頭を撫でただけで終わってしまう。 物足りなさが、思いを募らせた。 ほかの女の影はなかった。 「携帯を見せて」という要求にも、笑顔で見せてくれた。 障害らしい障害もない、なのに彼の前には線があって、 その線から先には入れてくれない、そんな感覚があった。 ダメと言われれば、余計したくなる。 障害があれば、無性に超えたくなる。 プチアクティブな私は、友人の力を借りて、実力行使にでた。 難しいことがあまり得意でないので、正面突破だ。
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