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飲み会で酔って、その勢いで彼の家に乗り込んだ。
深夜のアポなしの訪問にも、彼は心配そうに対応してくれた。
酔ったふりをしながら、私は結構満足だった。
彼の部屋はちょっと驚いた。
独身男性の家に乗り込むことは覚悟がいる。
どんなに外側を取り繕うとも、安心できる部屋では素がでる。
部屋がきれいそうな顔した人が、実は汚部屋でした。
なんて話は珍しくない。
でも、彼の部屋は大丈夫だった。
男性の部屋特有の匂いが無く、女の影もなかった。
綺麗に整理がされて、いい意味で生活臭があまりしなかった。
机周りの壁には、絵画のコピーが飾られていた。
「絵が好きなんだ」と恥ずかしそうに言った。
それがすごく控えめでそれでいて可愛らしく、
ちょっとキュンと来た。
気分が高揚したせいか、大きな波が来て、
オロオロが競り上がってきた。
トイレで、全部出す。
彼が背中をさすりながら、さりげなく処理をしてくれる。
それが気を使っている様子がなく、
自然にそうしてくれているようで、とても良かった。
辛い物を全部出して、いろいろ満足してしまった私は、
そのままトイレで力尽きた。
彼がお姫様抱っこでベットに運んでくれる。
そこに横たえて、布団をかけてくれた。
気持ち良い微睡みを感じながら、
いつの間にか、眠ってしまった。
そのまま朝まで眠っていられたら、
もっと違うことになっていたのだと思う。
真夜中。
月も傾き始める時間。
突然大きな音がした。
私はびっくりして起きて周りを見る。
特に変わったところはなかった。
ただ、彼の手が堅く握られ、拳が床に立てられていた。
その拳と、大きな音が繋がらないままで混乱していると、
その拳を振り上げて、もう一度床を殴った。
暗闇の中、カーテンの隙間から月明かりが伸びていた。
それが、ちょうど彼の顔にかかっている。
彼は両目を見開いて、何事かをつぶやいている。
お経のように強弱のある言葉だ。
なにか悪い儀式でもしているようで、私は身を固くした。
言葉がだんだん小さくなった。
表情が険しく、悲しそうになっていく。
歯噛みしたのがわかった。
力強く噛まれ口からは、白い歯と歯茎がみえた。
それがギリギリと音をさせた。
それから、上半身を起こすと、虚空に向かって言葉が出された。
「息を止めてオレを見ろよ!」
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