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老犬とおばあさん
近所に独り暮らしのおばあさんがいる。
よそに親戚とかがいるのかどうかは知らないが、家には少なくともおばあさん一人。後、犬が一匹いた。
いかにも雑種な老犬で、低い生垣からたやすく見えてしまう庭の片隅に、いつもごろりと寝そべっている。
首輪はしているけれど鎖には繋がれていない。だけど、家の外に出るどころか庭をうろつく様子もなく、見かけた時にはいつも、一本だけ植えられている大きめの木の下にいた。
枝が張り出したその位置は、日差しも雨も避けられる場所で、きっと寝心地がいいのだろう。
でも、枝は万能じゃないから、夏の暑い盛りに、時間帯によっては日差しが当たることもあるし、冬場で日陰が寒そうな時もある。
雨だって、風向きによっては降り注ぐし、稀には雪が積もる年もあった。
それでも老犬はいつもそこにいた。
おばあさんが呼んだ時以外は必ずそこに横たわっていた。
あれから数年。
進学を機に家を離れている間におばあさんが亡くなり、久しぶりに戻った時、おばあさんの家は綺麗さっぱりなくなっていた。
犬はどうしたのかと聞いたら、おばあさんの葬式までは確かにいたのに、それきり姿が見えなくなっているという。
その話の流れで、俺は、おばあさんの家について衝撃の事実を聞かされた。
おばあさんの死後、空き家となった家は遠縁の依頼で解体されたのだが、その際、庭から白骨死体が出てきたのだという。
それが誰の者なのか、警察が鑑定した結果、何十年も前に埋められていたという遺体は、つい先日亡くなったおばあさんのものだと鑑定された。
おばあさんは年の割に丈夫で、もう何年も医者にはかかっていなかったようだが、結構昔にかかった内科や歯科のの記録から本人であると断定されたらしい。
その、おばあさんの遺体だが、発見されたのは木の近く…あの老犬がいつも寝そべっていた場所だったという。
遺体がおばあさん自身だというなら、あの家にいた、俺も何度もあったことのあるおばあさんは何者だったのか。
老犬は、どうして遺体の眠る場所に居座り続けていたのか。
謎は誰にも解けないまま、おばあさんの家だった土地は、今も買い手のつかない荒れた売り地として存在している。
老犬とおばあさん…完
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