第7章 止まった時間

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救急車で倒れる前。 入院してからは点滴をしてはいたものの 家にいた時点から約一ヶ月近く、 何も食べていなかったからだ。 先生も少し驚いていた様子だったが、 「そうだよね。すぐに用意させるからね」と優しく対応してくれた。 そして数分後病院食が届く。 俺は両手の固定を外して貰った。 食べ物を目の前に、我を忘れ 手術後だと言う認識すらなかった俺は、 背中を起こそうとした。 するとズーンと、軽い脳振動(しんとう)のような衝撃が走った。 看護師さんが、 だめだよ。あなたさっきまで 昏睡してたんだよと教えてくれた。 しかし、看護師さんが病院食を見るなり お粥じゃなくて、パンが来てる。 食べれるの?と聞いてきた。 俺はとにかく空腹だったので、 ベットをテーブルの位置まで上げて貰い、 普通にお箸を掴もうとした。 するとまた看護師さんが、 右手は麻痺で動かせないはずだから 手伝うと言ってくれたが、 俺はその時普通に右手で箸を掴んでいた。 看護師さんの反応もつかの間 空腹だった俺は 出して貰った病院食を一気にたいらげた。 正直全然足りなかった。 それを見て看護師さんは 少し驚いでる様子で その後様子を見に来た先生も 食べれたんだ、若さだねと言っていた。 看護師さん曰く、普通は術後すぐパンは出さないらしい 多分若かった俺の回復力を試してくれたのだろう。 あの日の事は、 今でも鮮明に覚えている。 食事の後、看護師さんがベットを倒そうとしてくれたが、俺はもう少しそのままにして貰った。 それは、少しずつ把握はしてきものの その時の俺、実際のところ 全然把握してなかったかも。 とても眠れるモードではなかった。 辺りをもう少し見回したかった。 なんだか気持ちが落ち着いていたのを 覚えている。 嵐が過ぎ去ったような クリアな自分がいた。 しかし、 完全に終わったわけじゃなかった。 この日の夜から新しい闘いが始まる。 眠る事を許されない現実、 集中治療室に居ると言う現実を 目の当たりにするのだ。 更に、 俺はここで沈黙の日々、いわゆる 時間(とき)が進む事を許されないような そんな日々を体験する事になる。 「時間が進む事を許れない」 それはまさに、止まった時間のような日々を味わう事だった。
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