依頼 2

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 ――せめて、もうちょっと上手く感情を抑えてくれないもんかな。  ヘタクソ、と心の中で呟いた志継は、袍の袖を翻すようにして角を曲がった。その漆黒の袍を目にした途端に、廊下に出ていた何人かの役人達が頭を下げ、そそくさと部屋の中へと入って行く。  気配に敏感な志継には、否が応にも脅えて自分をやり過ごす役人達の息遣いが耳に入ってきてしまう。  勘弁してくれ……。  大の大人がこんな高校生相手に脅えている姿は、滑稽を通り越して醜悪だった。  いくら暗殺の任に就いてるからって、手当たりしだいに殺していく訳でもあるまいに……。  馬鹿じゃねぇ?   独り毒づいた志継は、それでも心情を微塵も表情には出さず、トストスと静かな音をさせて長い廊下を進んで行った。
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