8人が本棚に入れています
本棚に追加
かつては大日本帝国と呼ばれたこの島国。
名前を何度も換えながら、栄華を極め、衰退してゆくこの国が、かつては鬼の國だった事を、どれ程の者が心に刻んでいるのか……。
遺伝されゆく細胞も、名残を残すこの黒髪も、忘れたくないと切に願っているのに、人の心だけは、その忌まわしき記憶から逃れたいと望んでいる。
額にツノが出るのを恐れた国民は、かつては神風が吹くとまで言われた戦いを辞めてしまった。
――無敗伝説。
たった一度の敗戦で、皇は神である事を辞め、国民は手に刀を持つ事を辞めた。
殺されるのが怖かったのではなく、ましてや、戦うのが怖かったのではない。
己の中に眠る、誇り高き血が目覚める事を、誰もが恐れたのだ。
皇が愛したこの国を、他の国民に汚(けが)される事を拒み、他の国の者達も、己の領土にする事を、躊躇わずにはいられなかった。
真の皇は、まだこの国で瞑っている。
――地中深くに。
『潔く』
『誇りを刻み』
『敵に背を向けず』
『決して――』
真の皇の声が、耳元で囁く。
誰の耳にも――。
二人の皇が護りしこの島國。
天の皇と、地の皇と。
人が治める東の京と、
鬼が瞑る西の京。
現在でも、真の都は京にある。
鬼皇の瞑りを、地皇が護っているのだ。
国民よ、忘れるな。
己の中に眠る、誇り高き皇の言葉を――。
――そして、『潔く』
最初のコメントを投稿しよう!