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 かつては大日本帝国と呼ばれたこの島国。  名前を何度も換えながら、栄華を極め、衰退してゆくこの国が、かつては鬼の國だった事を、どれ程の者が心に刻んでいるのか……。  遺伝されゆく細胞も、名残を残すこの黒髪も、忘れたくないと切に願っているのに、人の心だけは、その忌まわしき記憶から逃れたいと望んでいる。  額にツノが出るのを恐れた国民は、かつては神風が吹くとまで言われた戦いを辞めてしまった。  ――無敗伝説。  たった一度の敗戦で、皇は神である事を辞め、国民は手に刀を持つ事を辞めた。  殺されるのが怖かったのではなく、ましてや、戦うのが怖かったのではない。  己の中に眠る、誇り高き血が目覚める事を、誰もが恐れたのだ。  皇が愛したこの国を、他の国民に汚(けが)される事を拒み、他の国の者達も、己の領土にする事を、躊躇わずにはいられなかった。  真の皇は、まだこの国で瞑っている。  ――地中深くに。 『潔く』 『誇りを刻み』 『敵に背を向けず』 『決して――』  真の皇の声が、耳元で囁く。  誰の耳にも――。  二人の皇が護りしこの島國。  天の皇と、地の皇と。  人が治める東の京と、  鬼が瞑る西の京。  現在でも、真の都は京にある。  鬼皇の瞑りを、地皇が護っているのだ。  国民よ、忘れるな。  己の中に眠る、誇り高き皇の言葉を――。  ――そして、『潔く』
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