依頼 1

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 雪がちらほらと降る窓の外をぼんやりと眺め、斎藤志継(しづく)は、机の上で手持ち無沙汰にシャーペンを転がしていた。  高二の二月。  もうすぐ三年になろうかというこの時期に、勉強そっちのけで雪に見惚れているとは言語道断! と、世の高二学生に殴られそうであるが、本人はいたって真面目に日々を生きているつもりなのである。  そう。それこそ、そんじょそこらのご気楽学生よりは。  生徒達の机の並ぶ列を、教科書を読み上げながら歩いていた古典教師が、志継の横を通りかかった途端、 「イテ!」  ガタン! と派手に机を揺らして、志継は項を両手で押さえた。 「どうしたんだ?」  わざとらしく驚いて、古典教師の古崎敬祐が顔を覗き込んでくる。 「頭でも痛いのか?」 「ちがっ!」  オメーの所為だよ! と瞳を古崎に向けた途端。目の前を何かが凄いスピードで横切った。 「ん? 何だ、鼻血か」  ノンビリとした古崎の言葉と同時に、大量の血が鼻からボトボトと零れ落ちる。 「うわー!」  と、あまりの血の多さに教室中がパニックに陥った。  それは、志継にとっても同様。  しかし彼の場合。問題は自分の血の所為で汚れた制服を、どうしようかという心配の方だったが。 「みんな落ち着け。私は斎藤を保健室へ連れて行く。各自、自習しておくように」  ズボンのポケットからハンカチを取り出した古崎が、それを志継の鼻へとあてながら言う。ズリズリと引き摺るように志継を席から立たせ、扉へと向かった古崎は、途中の教卓の前で足を止めた。  ヒヤリと冷たい視線で一同を振り返り、いつまでもザワめく生徒達にバンッ! と教卓を叩く。 「私は、落ち着いて自習しろと言ったんだがね、諸君」  瞬間。一気に教室内の気温は氷点下へと下がる。  二十七歳にしてこの迫力かよ。と、志継が顔を顰める程、一瞬にして教室内は静かになった。 「みんな、いい子だ。ではそのように」  人差し指を立ててウィンクした古崎に、更に気温は下降の一途を辿る。訳も解らず命の危機を本能で感じ取った生徒達は、黙ってコクコクと頷いた。  そうそう、ちゃんと言う事を聞かないと殺されちまうぞ。  いやマジで、と古崎に腕を引っ張られながら、志継は心の中で呟いていた。
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