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雑多に置かれた携帯を手に取る。僕の指はその上でしばらく逡巡し、そして忘れるはずのない番号を刻み始めた。
「番号変わってるかもしれませんよ」
僕の様子からどういう人に電話をかけようとしているのか気づいたらしい天使が、にやにやしながら言った。
「晩御飯のおかずにしていい?」
「晩御飯!メニューはなんですか?」
「食わせてもらえるとか思うなよ」
「そうすると餓死してしまうのですが……」
「卒論のテーマ天使の生態にすりゃよかった」
そう言って、携帯を耳に当てると、コール音が鳴り始める。
それに呼応するかのように僕の動悸も激しくなっていく。
コール音が途絶えて期待した僕の耳に飛び込んできたのは、
『只今留守にしておりますご用の方はピーという電子音のあとに……』
という無機質な声だった。
電話を切り、落胆を隠せない僕を見てまたにやけている天使。
「揚げるのと焼くのと煮るのと蒸すのどれがいいかな?」
「私は揚げ物が好きですねえ」
「そうか。結構ハードなとこいくね。じゃあ、おいで」
天使は初め言われるままついてきていたが、揚げ物をするのに僕が圧力鍋に油を注ぎ始めたこと、材料を出す気配がないことから、恐ろしいスピードで逃げた。
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