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時計の針が止まっているときはくれぐれもご注意ください…
「ふぅ…やーっと終わったぁ」
多香子は、大きく両手を挙げて背筋を伸ばした。
商品陳列や接客などはパートの子たちに任せられるが、店の売上集計だけは自分でやらないといけない。
毎日のことなのに、これが意外に時間がかかる。
キチンとできていれば伝票と実際のお金を突き合わせるだけなのだが、何故だかいつも合わないのだ。
丹念に確認し、間違いを見つけて帳じりを合わす。パソコンの電源を切り、伝票を片付けて、帰り支度を進める。
既に外はしんと寝静まっている。そろそろ終電がヤバイはず。
「今、何時だろ…やだ、止まってる」
多香子は腕時計を見て眉をしかめた。時計の針は二時二分で止まっていた。
「電池切れか…もうっ」
振り返って店の壁掛け時計を見る。時計の針は二時二分で止まっている。
「ちょっ…マジで!?」
多香子はスマホを取り出した。画面は点いているものの動かない。時刻はやはり二時二分。
さすがの多香子も背筋に冷たいものを感じた。
「もういいわ。帰ろ!」
わざと大きな声を出して、照明を消して戸締まりをする。駅までは歩いて十分程度。多香子は速足に駅へ向かう。
人気のない薄暗い道。
街灯がぼんやりと闇に道を浮かび上がらせる。
「…」
周囲の暗闇に不穏な気配を感じた。全身の毛穴が総毛立つ。走り出したい衝動を抑えながら歩くこと約六分余。駅の灯りが見えた。
ホッとして思わず笑みが浮かんだ次の瞬間、笑顔が凍りついた。
駅の灯りの下でユラユラと揺れる影。眩い灯りに照らされているのに、はっきりと姿が見えない影!
人間にしては、やけに四肢の細長い、軟体動物のような影…
多香子はそれ以上駅に向かうのを止めた。本能が警告を発している。
ちょうどタクシーが近づいて来るのが見えた。
今日はあれで帰ろう。多香子は手を挙げてタクシーを停める。
開いたドアに転がり込むように乗り込む。ドアが閉まり、運転手が振り返った。
「ぼぎゃぎゃ、どごばで?」
意味不明の言葉、見ればそれは先ほどの影!
多香子は悲鳴をあげて飛び起きた。
誰もいない深夜の店内。
売上集計をしながらパソコンの前で居眠りをしてしまっていた。
額の汗をハンカチで拭きながら多香子は時計を見た。
二時二分。
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