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「イカロスは名工ダイダロスの息子。
ダイダロスは、ロドスの女王様の息子で化け物のミノタウロスを閉じ込める迷宮を、イカロスと一緒に作った。
だけどその迷宮が完成したら、ダイダロスとイカロスはロドスの王様に、ミノタウロスごと迷宮に閉じ込められちゃったんだ」
市之瀬和也(いちのせかずや)はハンダごてを持って、橘利奈(たちばなりな)にイカロスの神話を聞かせていた。
利奈はその話を、つまらなそうに聞いている。
「って言うか、あんまり関心ないみたいだね」
「歴史とかそういうの苦手なんだ。
あたしって中卒だぜ。
解るだろ、それぐらい」
それを聞いて、和也は驚いた。
「利奈ちゃん、高校行ってないの?」
「言わなかったか?
あたし、高校クビになったんだよ。
それより、そのイカロスが太陽に向かって飛ぶとどうなるんだ?」
和也は今の利奈の告白をなるべく気にしないようにして、箱の中に目を向ける。
「端折(はしょ)って言うと、ダイダロスとイカロスは迷宮を脱出する為、鳥の羽根を蝋(ろう)で固めて翼を作った。
その翼で窓から飛び出て空を飛んだ」
すると利奈は、少し声に出して笑った。
「それ、無理あんだろ。
普通そんな翼じゃ飛べねぇぜ」
「って言うか、昔話みたいなものだからね。
で、イカロスは高く飛び過ぎて、そのせいで太陽の光を浴びすぎて、蝋が融けて翼が壊れて、落ちて死んじゃった」
利奈は呆れた眼で「間抜けだな」と呟いた。
「つまり、イカロスが太陽に向かって飛ぶと蝋が溶けるんだな?
あっ、コードの何本かに白い塊がある。
それってもしかして……」
「蝋だろうね。
多分これを融かせばいいってことだと思う」
そう言って、和也は大きく息を吸い、利奈を見て「いい?」と訊ねた。
「ああ」
「やっぱり傍にいるの?」
「当たり前だろ」
「……ありがとう」
和也の肝は、利奈の力強い眼差しを受けて据わった。
そして和也は慎重にハンダごてを蝋の一つに当てる。
細く白い煙が立ち上り、蝋で繋がれた配線が切れた。
「……何にも起こらねぇな」
「爆発しないってことは、間違ってはいないってことだろうね」
「よし、他の蝋も融かしてみようぜ」
「了解」
しかし和也は油断せず、ゆっくりとハンダごてを扱い始めた。
蝋で繋がった配線は全部で4本だった。
その3つ目の蝋を融かしたところで、和也は大きな息を吐く。
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