序章 前半

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 橘利之(たちばなとしゆき)が、そのやや吊り上がった目を開くと、まず真っ白な天井が見えた。 利之は現状を理解できず、首を振ろうとする。 しかし利之の四肢は蝋(ろう)で固めたかのように動かず、喉からは声も出なかった。 拘束されているわけでもなければ、口を塞がれているわけでもない。 身体に力が入らないのだ。  すると、利之の動かない視界の端で、部屋のドアが開き、白衣を着た女性が入ってきた。 その姿を見て、利之は今自分が病院に居る事を理解する。 そしてその女性は利之と目が合うと、両手で口を押さえて目を大きく見開き「まぁっ!!」と叫んだ。 「た、橘さん! 解りますか!? 橘さん!?」 利之は、何がどう解るのか解らなかったが、僅かに首を縦に振った。
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