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東誠(あずままこと)警部にしか出来ない事。
それは、千葉港署刑事課の人間の指揮を取ることだった。
東は部下達からの数多(あまた)の報告全てに目を通し、耳を傾け、今後の捜査方針を考えていた。
「橘利之(としゆき)誘拐時の目撃者は、まず期待出来ません。
利之を攫ったのは一流の運び屋です。
証拠を残す確率はかなり低い」
「でしたら、病院付近の聞き込みの人員は減らし、利之近辺の捜査員を増やしてみてはどうでしょう」
東の意見に、外から帰ってきた新田徹(にったとおる)警部補がそう提案した。
「正論です、そうしましょう。
病院に残っている警官には、医者に利之のカルテを見せてもらえるよう説得させて下さい。
プライバシーがどうのとか言うならば、せめて正確にいつから入院しているか、それだけでも聞き出すように」
「はい」
東は新田にそう指示を出しところで、一本の電話に呼び出された。
「東だ」
『高野(たかの)です』
電話の相手は、利之の身辺の捜査を行っている高野雅史(まさふみ)巡査長だった。
「進展はあったか?」
『何とか4年前、利之と同じバイトをしていた人物と連絡が取れました。
当時利之は、何か儲かるバイトを別に見つけたと言って、それっきり姿が見えなくなったそうです』
「儲かるバイト?」
東は息を呑む。
『詳しい内容は、当時のバイト仲間も知らなかったんですが、どうも薬関係っぽいですね』
「薬?
キナ臭くなってきたな」
『そうですね。
多分、麻薬関係じゃないかと』
「解った。
県警の捜査四課に問い合わせてみる。
麻薬となれば、おそらくバックに暴力団が関係しているだろうからな」
『よろしくお願いします。
自分は引き続き、利之の友人知人を当たってみます』
東は高野との電話を終えるとすぐに、千葉県警察本部へ電話を入れた。
結果から言えば、収穫はあった。
今からおよそ4年前の冬。
橘利之は意識不明の状態で、千葉県内のある山林の中に遺棄されていたという記録が、千葉県警察本部刑事部捜査第一課にあった。
その山林はいわゆる心霊スポット呼ばれる場所で、時折肝試し目的で人が訪れていた。
ある日、若いカップルが山林を深夜に訪れ、そこで偶然にも倒れていた利之を見つけ、警察に連絡をした。
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