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聖飛鳥(あすか)は小林巡査と共に、警察車両で海風の吹き荒れる千葉港へとやってきた。
ひと口に千葉港と言っても、その総延長は約133キロメートルにも亘る。
先程の日の出ふ頭も千葉港の一部である。
聖はそんな日本最大の港である、千葉港の千葉中央地区と呼ばれる区域、更にそこにある千葉港湾事務所の傍にやってきていた。
「あの暗号によれば、ここに次の暗号があるんですね」
聖の傍らで、小林が新田から受け取った受信機のアンテナを伸ばしスイッチを入れる。
その途端、電子音が連続して鳴り、LEDが点滅を始めた。
「えっと、これでどうやって発信機を探すんですか?」
「アンテナを色々な方向に向ければいい。
最も反応が強くなった方向に発信機がある。
日の出ふ頭で俺が試した感じでは、発信機までの距離が大体200メートルぐらいになると反応が出始める」
「こんな感じかな?」
小林は受信機を持った手を伸ばし、ゆっくりと左右に降り始めた。
受信機が北東に向いた所で、やや音が早くなる。
「向こうみたいですね」
「そうだな」
二人は波止場に添って歩き始めた。
「こんな時になんですが、聖さん、不安じゃないんですか?」
小林が歩きながら聖に訊いてきた。
聖はその問いには答えず、電子音を聞きながらゆっくりと歩を進める。
「あの、聖さんって凄く落ち着いて見えるんですけど、でも、いつ爆発するか判らない爆弾の傍に、貴方の助手がいるんですよ?
それなのに平気なんですか?」
「不安だ」
聖の漏らした声に小林は「えっ?」と疑問符を投げる。
「今のところ、爆発する確率はかなり低い。
交通事故に遭う確率の方が高いだろう。
それでも目に見える危機がそこにあると思うと、どうしても人は不安になる」
すると今度は小林が黙った。
「だからと言って、焦ってはならない。
焦れば焦るほど、視界は狭くなり耳は遠くなる。
そうなれば更なる不安に捕まる。
だから今は深呼吸をして、出来るだけ落ち着かなければならない」
「そ、そうですね」
小林は大きく息を吸って吐いた。
聖はその様をサングラス越しに見て、僅かに口の端を持ち上げる。
それから1分ほど歩くと、常に早まり続けていた電子音が遅くなり始めた。
「あれ?
どういうことですか?」
「通り過ぎたようだな」
聖は踵を返した。
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