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「まずはお前の方から、何を調べているのかを話せ」
千葉県警察本部傍の路上で、組織犯罪対策本部捜査第四課課長の田辺(たなべ)警視が東(あずま)警部を睨みながら言った。
「先程、電話で簡単に述べましたとおり、我々は橘利之(たちばなとしゆき)の行方を追っています」
「過去の捜査資料にその名前があった。
だが、捜査一課の事件だったな」
田辺はヤクザ顔負けの強面(こわもて)に笑みを浮かべる。
「はい。
その後の捜査で、利之はある製薬会社のアルバイトとして、新薬の試飲を行っていたことが解りました。
まだこの会社のことは解っていませんが、もしかしたら麻薬絡みの事件かと思い、警視に情報をご提供頂きたく、こうして参りました」
「成る程」
田辺は懐から煙草を取り出し、口に1本咥えた。
「麻薬と暴力団は切っても切り離せない関係だ。
自分のところで作っている連中もいる。
その作った薬の効用を試す為、何にも知らない奴をバイトとして引き込んだ可能性は確かにある」
「そのアルバイトは薬漬けになり、結果、良い客になります」
「そうだな」
田辺は煙草に火を点け、煙を吐いた。
「胸糞の悪くなる話だ」
「今から4年前。
そうしたアルバイトを雇った製薬会社に、お心当たりはないでしょうか?」
「知らんな。
一応、厚生局の麻薬取締部に伺いを立ててみるが、あまり期待は出来ないぞ。
大抵、そうした会社と暴力団の間には幾つもの仲介があって、なかなか証拠は掴めないんだ」
「証拠はなくとも、警視が怪しいと睨んでいる会社はありませんか?」
「今現在ならば幾つかあるが、4年前となると話が違ってくる。
暴力団ってのは、用済みになった連中をあっさり切る。
酷いのになると潰すからな」
田辺は携帯用の灰皿を取り出し、そこに煙草を押し付けた。
「取り敢えずは調べてみる」
「よろしくお願いします」
そこで東は、別の話題を思い付いた。
「ところで警視。
運び屋の【細流(せせらぎ)】という人物はご存知でしょうか?」
「噂ぐらいは、な」
田辺は苦虫を噛み潰したかのような表情になる。
「その運び屋の手に掛かれば、どんな物でも運ばれちまうって話だ。
ヤバイ物を扱う連中は、結構重宝がっているようだ」
「そうですか。
その細流が今回の事件に絡んでいます」
すると田辺は目を見開いた。
「そいつを捕まえることが出来れば、大金星だな」
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