2050年【ウイルス性新薬研究施設・2】

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 (ダメだ! 完全に奥さんに気を奪われている! 奥さんは、もう死んでいるのに!   化学が恋人の俺にはわからない感情だけど、人を愛すれば盲目になってしまうのだろうか?   今大事なのは一刻も早く、ここから……レッドソウルから逃げることなのに!)  レッドソウル化した研究員達が結子に気を取られている玲人に襲い掛かった。シャノンは咄嗟に近くにあった消火器を手にし、玲人に群がるレッドソウルを殴打した。  「新藤博士! 逃げるのよ!」  危険を顧みず立ち向かったシャノンにシロが跳びかかろうとした瞬間を捉えた佐伯は、ハンディカメラを素早く床に置き、エレベーター前に飾られてる背の高い観葉植物が植えられた植木鉢を持ち上げ、渾身の力を籠めてシロに投げ飛ばした。  頭脳派の化学者である佐伯が重量感のある物体を持ち上げたのは数年振りのこと。肩の関節が抜け落ちそうな感覚を覚え、顔を歪めた。  だが、渾身の攻撃だったにも係わらず、凶暴化し敏捷性も格段に上がったシロに軽々と躱されてしまう。  結果、シャノンの胸部に重たい植木鉢が落下し、仲間に怪我を負わせるだけとなってしまった。激痛を訴える表情を浮かべたシャノンは気を失い、通路に倒れた。  「シャノン!」  シャノンの怪我の状態が気になる。佐伯は緊張と恐怖を孕ませた汗に掌を湿らせた。  (早く救出しないと! レッドソウルに噛まれたら大変だ!)  シャノンへと歩を向けるが、佐伯の攻撃を躱したシロが敵意を剥き出しにして、こちらに向かって突進してくる。  佐伯は覚悟を決め、歯を食いしばって構えた。  飛びかかってきたシロをギリギリのところで躱し、犬の急所でもある腹部を思いっ切り蹴り上げた。怯んだ隙を狙い<死者蘇生ウイルス>が支配する頭部を素早く殴打する。  決死の攻撃を仕掛けられたシロは、バタンと横向きに倒れた。しかし、一時的なダメージである為、油断禁物だ。すぐに背を起こし、襲ってくるに違いないのだから。  息を切らし、玲人とシャノンに目をやった。  「新藤博士! シャノン!」  (ダメだ、呼び掛けても、新藤博士の耳には届いていない。それにシャノンも目を覚ます気配すら感じられない。俺に二人の命を背負えってのかよ!?)
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