第1章 出会い

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春麗らかな午後の代官山、オープンカフェは洗練された人々で溢れている。 小村恵子はキャラメルラテを片手に、古城の案内書を広げている。歴史好きの祖父の影響もあり、幼い頃から日本の城に親しんでいた。高校生になると自ら城巡りを始め、27歳となった今では訪れた城は数十に及ぶ。 次の週末はどこの城を見ようか。カフェでそんな考えを巡らせている時が、恵子にとってこの上なく幸せな時間だった。 ふと目線を上げると、一人の男性が目に入る。プレスの効いた白いシャツに、タイトなジーンズというシンプルな出で立ち。 カップルや女同士の客が大半の中で、男性一人の客は異彩を放っている。艶やかな黒髪の長髪と、鼻筋の通った端正な顔立ちが、更に彼の存在感を際立たせている。 しばらく凝視していると、おもむろに彼がこちらを見た。目が合うと彼は一瞬驚いたような表情を見せたが、私から視線を反らさなかった。私は鼓動が高鳴るのを感じた。 次の瞬間、彼は席を立ち躊躇なくこちらに向かってくる。心臓は一層激しく脈を打つ。呼吸ができない。私はどうにか息を吸い込もうと努力した。 「ここ、いいですか?」と彼はそう問いかけると同時に、私の向かいに腰を下ろす。あまりの突然の出来事に私は「は、はぁ」などと間の抜けた言葉しか返せない。 率直に言います、彼がそう言った次の刹那、半ばパニック状態の私の頭は完全に真っ白になった。 「君のヌードを描きたい」
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