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「そう思われるようなことされてないし、してないけどな」
やがて、紘斗はぽつりと云った。
そして――
「姫良、貴刀社長も同じだ」
と静かに云い、今度は姫良が黙りこんだ。
あまりに長く離れていると、どんなふうに触れていたかも話していたかもわからなくなる。
嫌いとはけっして云えなくて、かといって近づくこともできない。
互いがどちらも気づかないまますれ違ってしまえば、追いかけることも呼びとめることもかなわない。
それならば、片想いでも、その気持ちが在るだけで繋がっていられるのだろう。
ただ、いつか貴刀家が苦手ではなくなるときがくるのか、姫良には想像もつかない。
ふと、川面から寝そべった紘斗に目を移すと、さほど姫良が黙っている時間は長くなかったと思うのに、その目は閉じられていた。
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