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出しても出しても水がぬるい。
「こんなんじゃうまい飯が炊けねぇ」
淳史は舌打ちした。明らかに新品のエプロンをして、かたわらに料理の本を置き、米を研いでいる。そんな淳史を見守るのは、大仏のような体型で観音様の微笑みをたたえた政樹だ。
「僕、たいがいのもの美味しいって思うから、大丈夫だよ」
「たいがいのものって…ひどくね」
「なんで」
「俺、マジうまいもん喰わせてやりたいわけ。たいがいのもんじゃなくて」
「僕…あの…淳史くんがつくってくれるってだけで…ほんと…」
頬を桃の実のようにピンクに染める政樹。
「なにその唐突なBL風味…あーもうやめだやめだ!米研ぐのに水温が25度なんてありえねえよ。なんかもういろんなうま味成分やら米の魂的なサムシングやらが全部ぬるい水に溶け出して下水に流れていったことであるよ」
「完璧を求めちゃ、いけませんよ」
「来迎印結ぶな、霊験あらたかか」
「お米がだめなら、パスタを食べればよいのです」
「おっ?」
淳史はキッチンの引き出しをあさりはじめた。
「悲報。うちにお前に食わせる乾麺はねえ。これならあったが…」
淳史は1kg入の小麦粉の袋を取り出した。
「あとは…パスタじゃねえけど麺状の食品をご所望であれば、焼きそばの麺が冷蔵庫の中で寒さと差し迫る賞味期限にふるえてる」
政樹の来迎印がとけ、観音顔がパッと輝いた。
「オ、オ、オコノミヤキ!」
「うわ、なんか後光さしてきた…」
「おこのみ、ひとつ、お願いいたします」
「わ、わかった。じゃ、じゃあ、あっちの部屋でゲームでもして待ってて」
「レベル上げして、待ってるから」
「金ムギみたいに言うな」
それから一時間後。
淳史は料理を手に政樹の前に現れた。新品の黒いエプロンは、白い粉にまみれていた。
「苦戦のあとが見受けられます」
「あ、あのさ……さきに言っとくけど、マジ期待しないで」
「目が泳いでいますよ」
「は、初めて作ったし、その、ちょっと焦げちゃったし」
「だから……さっき言いましたよ、淳史くんが作ってくれたってことが嬉しいんだから」
淳史の顔が赤いのは、熱いフライパンと格闘したからなのか。
「ありがとう、僕なんかのために」
政樹は箸を取った。
「いただきます」
律儀に手を合わせ、政樹は箸を口に運んだ。
その途端。
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