結婚相手

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赤い糸で結ばれるーとはこういうことなのかもしれない。 僕はきっとユーコと結婚するだろう。 そんな運命を感じた。 バンドを組むときは、僕がギターを弾き、彼女はボーカルとキーボードを担当。 一緒にやっているときの彼女の声は、僕の耳から入ってくるというより、直接心の奥を揺り動かした。僕のギターはそれに呼応して踊るように弾けた。 こんなことは初めてだった。 僕は演奏にのめり込んだ。 それ以上に彼女に一生懸命になった。 そして翌年の学園祭後の打ち上げが終わり、彼女を駅に送っていく途中大学の近くにある自分の下宿先に誘った。 ユーコは大学四年生。だから楽しかったクラブ活動もこれで終わりになると思うと、このまま別れたくなかった。 二人のことを大学生活の楽しい思い出だけにしてはいけない。 この先もずっと一緒にいたかった。 だからそれを形にしたかった。 歩きながらも今日のコンサートが上手くいった事やユーコの声がとてもよかったなどといったたわいもないことを話しかけ、気持ちをそらさないようにした。 そしてそっと手を握った。 ユーコはそれを振りほどかなかった。 これまでも何度かユーコを誘ったが最後は「じゃあ、また」のひと言で途中から帰っていった。 そんな時結局は「仲の良いお友達」で終わってしまうのかという思いが胸の中に込み上げ情けなくなった。 それがこの日は違った。 彼女にとって大学生活最後のイベントが終わった開放感がそうさせたのかもしれない。 下宿に近づくに連れ、ドクドクという心臓の音が耳の中で大きくなる。 下宿の部屋はきれいにしておいた。 いつもは敷きっぱなしにしている布団をあげ、テーブルを磨き上げ、机の下に隠してあるマンガやエロ本や怪しげなDVDをダンボールに放り込んで押入れの奥に隠した。そして隅から隅まできれいに掃除をして、テーブルの上にはユーコが好きだというピンクのバラを飾った。 そして布団はすぐに出せるようにキチンと畳んでしまって置いた。
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