結婚相手

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どうやって場を持たそうかと考えるが、緊張して頭が働かない。 信二はユーコのグラスにウイスキーをまた注いだ。 「ありがとう」 ユーコはそれを少し口に含むと、そっとテーブルに置いた。 それ程飲みたくはないのだろうか。 「楽しかったね」 信二は暗くなった外を見ながら小さな声で呟いた。 ユーコは何かを考えているのか黙っている。 二人の間に微妙な空気が漂う。 「でも張り切りすぎて疲れちゃった」 そういって信二はチラッとユーコの顔を盗み見た。 その後に、だから泊まっていけば・・・という言葉を足そうかと思ったができなかった。 ユーコはグラスの底をじっと見つめている。 もしかしたらこのまま泊まっていこうか、それとも帰ろうか考えているのかもしれない。 信二は唾をゴクンと呑みこんだ。 そのとき、ユーコがグラスから目を離して、顔を上げた。 「ユーコ」 と、信二が言ったのと「青柳さん」とユーコが言ったのが同時だった。 二人は思わず笑った。 強張っていた空気がいっきに緩んだ。 「もう寝よう」 信二は肩の力が抜けたので本音がすっと口元にでた。 ユーコは笑った。 うまくいった―と、思った。 「お話しがあるの」 突然、ユーコが口元を引き締め、真顔になった。 さっきの笑顔は既に消えている。 信二の心臓がドクンと音をたてた。 自分でも顔がひきつったのがわかった。 まさか突然の手のひら返しはないだろう。けれど、もし結婚を前提にしてといわれたら絶対OKする。 「なに」 といったものの声が上ずってしまった。 「これまで黙っていたけれど」 ユーコは目を伏せた。 その先が読めない。 「怒らないでね」 「うん」 それだけをいうのがやっとだった。 ユーコが何を考えているのか全く想像がつかない。 信二の頭の中は真っ白になっていた。 電気を消したほうがいいのだろうか。 そんな事が頭の中に湧いていた。 ユーコが顔をあげ、信二の目の奥を見つめた。 信二の心臓がまたドクンと鳴った。
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