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「私・・・、実はあなたのお姉さんなの」
信二の顔から力が抜けた。
ぽかんと口を開けたまま時間が止まる。
ユーコが口にした言葉の意味を消化できない。
信二が呆然としているのを見てユーコは話を続けた。
「そうよね。いきなりこんな事を言われても訳がわかんないわよね」
ユーコは口元を歪めてひきつった笑みを浮かべた。
「私も信じられなかった。でも色々と調べたりしていくうちにあなたと私は他人じゃないとわかったの」
「ど、どうして」
信二がやっと口を開いた。
目の焦点が合わない。
「あなたが他人じゃないのではと疑い始めたのは昨年のクリスマスの頃だった。一緒にいったコンサートの帰りに食事をしたときのことを覚えている」
「ええーと。ユーミンのコンサートだったよね」
「コンサートの後だったから、どこのレストランもいっぱいでお腹がすいていたので和食の店に入ったわね」
「うん。確か土佐料理の何とかという店だったね」
「私が高知出身なので偶々目についたの」
「それからお互いの田舎の話をしたでしょ」
「うん」
「私が高知であなたが神戸。あなたは高知には行った事がないって言ってたわよね」
「うん」
「でも、あのとき鰹のたたきを『おいしい、おいしい』って食べたので驚いたわ」
「そんなにめずらしいことなのかい」
「外側を炙っていて、内側が生なので、それをに抵抗がある人もいるの」
「へー、そうなんだ」
「でもあなたはそれを本当においしそうに食べたわ」
「そんなに珍しいことなのかい」
「そうじゃないの。そのときあなたが鰹のたたきを生姜醤油につけて口に持っていき、おいしそうに食べているのを見てお父さんを思い出したの」
信二は驚いてユーコを見た。
「それから私がウルメを頼んだのを覚えている」
「ああ、ユーコが『そんなに土佐料理が好きなら私の好物も食べてみる』といったやつだよね」
「ええ。そうしたらウルメを右手で掴んで歯でちぎるところもお父さんにそっくりだった」
「そんな風にみていたのかい」
「別に意識していたわけじゃないわ。ただ、私と嗜好が似ているんだと最初は面白がっていたの。でもその頃から何か他人のように思えなくなってきたわ」
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