結婚相手

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ユーコは何かを思い出そうとしているのか、遠くを見るように目を細めた。 「あなたがわざと私の田舎の方言を真似したときの事を覚えている」 「ああ、NHKで『龍馬伝』をやっていたときだね」 「私がデートに遅れたとき『何をしちょったがよ』とか『いかんぜよ』って。その口調がお父さんそっくりだったので驚いたわ」 「そう」 信二は力なく返事をした。 「その頃から意識してあなたをしてみるようになったわ。そうするとあなたの目元や口元、何もかも父に似ているの。そして歩く姿も」 信二はため息をついた。 「そしてあなたのことが気になってお父さんに『私に兄弟はいなかったのか』って聞いたの」 信二はユーコを見つめたが、ユーコはグラスに目を止めたまま話を続けた。 「お父さんは『いない』って強く否定したわ。そして『つまらん事を聞くな』って怒った。確か私が産まれて1年もしないうちにお母さんと離婚したから、子供は私ひとりだと思っていたけれど、お父さんがそういったとき、私と目を合わせようとしなかったので、何かあるのだろうと思った。それで黙っていたけれど、薬学部にいる友達にあなたのDNAを調べてもらったの」 「どうやって」 「あなたが飲んだ缶コーヒーや髪の毛で」 「そういえば頭に何かついているとかいって髪の毛を強引に引っこ抜いたことがあったね」 「ええ。ごめんなさい。友達の話では毛根が必要らしいの。おかげで95%以上の確率で兄弟だとわかったわ」 信二は心の中に穴があいたように感じた。 今まで自分の将来はユーコと共に過ごしていくとずっと思っていたが、それがなくなってしまった。 「それで、お父さんに離婚したお母さんのことを尋ねたわ。最初は昔のことだといって取り合ってくれなかった。けれど私が大学でつき合っている男性の名前を青柳信二だと言ったところ顔色が変わったわ」 信二はまた、ふっとため息をついた。 「それで」 「お父さんはあなたのお母さんと離婚するとき、まだ幼かった私を連れて行ったけれど、お母さんのお腹の中にあなたがいたらしいの。そして別れた後にあなたが産まれたけれどそれは認知しなかったらしい。その理由はわからなけど。ただ、あなたと付き合うのはいいけれど同じ血が流れているから結婚は出来ないとはっきり言われたわ」 信二はユーコから目をそらし、真っ暗な外を見つめた。 街の灯りは消え、空に高く星が瞬いていた。
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