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「それじゃあ、はい。忘れもの」
そう言って僕は椅子にかかっていたマスクとハットを手渡す。まだ剣に見惚れていた彼女はハッとした様子で剣を収め、マスクとハットを受け取った。
(ハッとした様子でハット……いや、忘れよう)
彼女はこれから誰もいないようなヴァレッタにその身一つで繰り出す。ランプも松明も持たず、武装は剣を一本持つだけ。
でもそれはもう慣れたようなものだ。僕が願うのは、彼女が傷一つなくこの屋敷に舞い戻り、血で全身を染めながらでも笑顔を見せてくれること。
いそいそとマスクをつける彼女に笑みを送りながら、部屋の窓を全開にする。丁度マスクをつけ終えた彼女の頭にハットを被せ、ぽんぽん、とハット越しに頭を叩く。
「いってらっしゃい」
「いってくる」
窓の縁に脚をかけ、ニンマリと恐ろしいぐらいの笑みを見せた彼女はひと息に飛び出した。
「ここは二階なんだけどね……」
いつも怪我をしないか心配になるけど、今までそんなヘマをしたことは不思議と無かった。
そうそう、実は僕が彼女に願っていることはもう一つあるんだ。それはね……
「いつか、彼女の飢えが満たされんことを」
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