およそ、数え切れないくらい。

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その日もやはり殺人鬼による殺人ショーが行われていた。ショーのお客さんは勇敢で無謀な義勇の善人だ。彼はただの住民のようだったけど、おおよそ、殺人鬼にとっては関係のないことだったようだ。 殺人鬼は今回のお客さんのように徒歩で街を周り、誰を招待しようか品定めをする。そして獲物を見つけると静かに忍び寄って脚を刈り、地面に向けてすっ転ばす。転ばされたお客さんは突然すぎて何がなんだか分からず、混乱状態に陥る。そこからが殺人鬼の本領発揮だ。 腰に手をやったかと思えば、音もなく剣が抜かれ、その手に収まっている。それからお客さんが逃げ出してしまう前に"アキレス腱"めがけて剣を振るうのだ。 バツン、とか、ベンッ、とか。ゴムでも切れたような、そんな音がしてお客さんは絶叫をあげる。立ち上がろうとしても足首周りの踏ん張りが利かなくて結局また地面に転がって、何度か繰り返すうちに現実が読めてきた恐怖で腰が抜けて、動けなくなる。小さくない勢いでブシッと血が噴き出ているのにもう足の痛みも忘れ、荒い呼吸で襲撃者の姿を眼に入れるんだ。 帽子を目深に被り、医者が被るマスクをつけて表情どころか顔の輪郭すら伺えない。唯一晒されている眼は野生動物を思わせる爛々とした眼光を放っていて、お客さんは息が詰まって心臓が止まってしまいそうだった。 夜に溶け込むつもりであろう服装はかえってその異常性をありありと浮き出させていて、この静かな街にはチグハグ過ぎた。 異物だ。 お客さんは震える脳味噌でそんなことを夢想した。 その様子をじっくりと舐るように観察していた殺人鬼は、血に濡れた剣を揺らしながら首を傾げてこう言った。 「可笑しいなぁ。今日のお客さんは全然叫び声を上げないな……ああ、そうか。喉が潰れているんだな」
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