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「離婚してほしいの」
少し泣きそうな声で、彼女は僕にはっきり告げる。
「なんで」
理由は分かっていた。だけど、聞かずにはいられなかった。
「他にあなた以上に好きな人ができたの」
あっさりと答えられてしまうから凄いなあ、と他人行儀みたいに思う。
目の前にある調味料がここにあるのも似つかわしくない、とも。それと、テーブルに置いてある花が心なしか寂しそうだとも。
「……そっか、どんな人なんだい?」
そう聞いてしまうあたり、僕も意地が悪いのか、それとも冷めてるのか。……今はそんなことはどうでもよかった。
ただ、今思い返せば、沈黙が怖かったせいもあるのかもしれない。
「あなたより、誠実で、私のことを一番に考えてくれる人よ」
僕はそんな状況ではないだろうに、高らかにハハハと笑った。彼女もつられて渇いた声でハハハと笑った。
お互いに気まづくなるのは避けたいと思ってのことだろう。……無意識からなのかもしれない。
「なぁんだ、バレてたんだ」
笑いが止まらないうちに言った。
彼女もフッと笑って、「えぇ、バレバレよ」といってから、どんな人?と僕と同じように聞いた。
「お前より、正直で可愛げがあって扱いやすい子」
「まぁ、まるで私が可愛くないって言ってるようなものじゃない?」
「そうだな」
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