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船の前で待ち合わせをして、5分前に彼女はやってきた。
「……随分、気合いを入れたね」
「あなたもじゃない?」
「あぁ。10年目の結婚記念日だし」
「もうっ、ここはお世辞でも可愛いって言ってくれないの?」
あっさりと返したら、こう催促が返されてしまった。
思わず、苦笑気味になる僕に彼女はしびれを切らしたのか、むくぅと頬をふくらます彼女は多分、僕からの「可愛い」を待ってるはずで。
不覚にもその事実に、可愛いと思ってしまった。
―――彼に言ってもらいなよ……と出かかってくる言葉を掻き消す。
……今日だけは忘れよう、楽しむって決めたから。僕はそう決めてからにっこり笑って本心からのことを言う。
「可愛いよ、とても」
「あ、ありがとう」
彼女は普段こう言わない僕だから、言うと予測してなかったのだろう。
びっくり驚いている彼女が面白くて、自然と頬が緩む。
「いえいえ。さあ、入ろうか?」
こくん、と頷く彼女をエスコートして僕らは船へと入った。
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