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人目を避け、なるべく人通りの少ない方へと道を選び、ようやく少女が足を止めたのは、うら寂しくみすぼらしい路地だった。
通りからいくぶん離れたところにある、建物と建物の間の狭い道。
両脇の建物が家なのか店なのかはわからなかったが、使われている形跡はない。
風と砂埃の中、少女はおぼつかない足どりでつきあたりの建物の壁まで歩き、そこに背をもたれて座り込んだ。
息は荒かったが、疲れは感じていない。
ただ、もうこれで誰にも見つからないという安堵だけが、少女の身体を満たしていた。
緊張の糸が切れた少女の頭を、睡魔が優しく撫でる。
温かな睡魔の胸に抱かれて、いつしか少女は眠りに落ちていた。
それから少女は、こんこんと眠り続けた。
時計もなく、昼夜の別もない世界で、時間の経過はわからない。
だが、時折少女を見つけた人間が、あの娘は死んでいるのかと思ってしまうほどには長い時間だった。
二度と目覚める気がないかのように眠り続ける少女の肩を揺り動かしたのは、腰に一振りの長剣を提げた少年だった。
二度、三度と身体を揺らされ、少女はかすかなうめきを上げてまぶたを持ち上げた。
「おはよう」
かけられた声にも、まだ眠気は消えない。
頭の中にもやが広がっているようで、その向こうから人の声が聞こえたような気がした。
かすむ視界がだんだんとはっきりしてきて、己の手足に染みついた汚れをとらえた瞬間、少女は唐突に覚醒した。
これ以上は下がりきれない壁に背中を押しつけるように身を縮め、きっと顔を上げる。
怯えた獣のように歯を食い縛り、眼前に立つ少年を睨みつける。
歳の頃は同じくらいだろうか。
少し驚いたような少年の顔に、微笑みが落ちた。
「こんなところにいたら身体に悪いよ。行こう」
そう言って手をさしのべる少年に、激しく首を振る。
「あなたが、汚れる……」
「大丈夫」少年は優しく笑う。「俺を信じて」
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