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同じくガラスに映った少年の顔が目に入る。
少女とは違う、汚れなど何一つない顔だった。
ぱっと目の前の少年に視線をやれば、彼の汚れは首元にしかない。
今にも服に隠れそうなその場所に、泥は確かに染みついている。
少女と少年は同じなどではない。
二人は決定的に違っている。
そう理解した瞬間、少女の足は止まっていた。
手を振り払った動作に、不審な表情で少年が振り返る。
「どうかした?」
少女は口元を押さえ、震えるように首を振った。
じりじりと少年から距離をとる。
「ごめん……やっぱり行けない……」
あからさまに少年が眉をひそめる。
その手が静かに腰の剣へと動いた。「どうして?」
「私、私は――」足を引きずるようにして少しずつ下がっていく。
「貴方とは違う、貴方より汚れている。一緒になんていられない」
「俺は気にしない」その手が柄(つか)を握った。
「ダメ、ダメなの」少女はなおも頭を抱えて首を振る。
「こんな、こんなに穢れてたら私は、私は誰にも近づけない。みんなを汚す、みんなを穢す!」
「そんなことないから。落ち着いて」青年が一歩、少女に近寄る。
「嫌、嫌だ! 近づかないで、近寄っちゃダメ! どうして、どうしてこんなに穢れてるの? どうして、私は――いつから!」
がりがりと少女は腕を掻きむしりはじめる。
こびりついた泥を落とすように、染みついた穢れを皮膚ごと剥がすように。
見る間に少女の腕は赤くなり、細かな傷がいくつも生まれ始めた。
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