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人々は、少女たちのことなど気にする様子もない。
笑い合い、冗談を言いながら街路を通り過ぎていく。
少女たちとすれ違っていく。
まるで、二人のことが見えないかのように。
少女は今や泣き叫んでいた。
腕から血を流し、顔をゆがめて悲痛な声を少年に突き刺す。
「違うの、こんなのじゃない、私はこんなに穢れてないの! ねえ、これは私じゃない、私じゃない! どうして私はここにいるの? 私っ、私はずっと空に行きたくて――」
腹への鋭い痛みに、少女の声が途切れる。
脚が体を支えきれずにくずおれ、少女は少年を見上げた。
口の端から血が流れ落ちる。
「あ……」
腹に刺さった紅く染まる刃からは、血が滴っていた。
人が変わったような冷たい目で、少年は少女を見下ろしていた。
彼に刺された、ということを理解するまでに十数秒の時がかかった。
「私……」
ぬめる手のひら。
目をやれば、腕も足もワンピースも、少女の下の地面さえどんどんと赤に染まっていく。
失血の寒気を感じながらも、赤で覆い隠された汚れに笑みが浮かんだ。
真っ赤な少女自身の血のおかげで、四肢に染みついていた泥はまったく見えない。
筋肉に力を入れることさえ困難になり、ぱたりと倒れ、力なく頬を緩めて少女は笑った。
「綺麗……。私、は、穢れてなんか――」
「穢れてるよ」
少年は容赦なく少女の言葉を遮った。
きっぱりとした否定に少女の身体がびくりと震えても、その冷徹さは揺らがない。
剣を振って刃の血を飛ばし、さらに布で丹念に拭ってから鞘に収める。
「勘違いしているようだから教えるけど、あんたは腐敗の大地に堕ちたから穢れたんじゃない。穢れていたからここに落とされたんだ」
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