3 罪人の町

6/8
前へ
/19ページ
次へ
 人々は、少女たちのことなど気にする様子もない。 笑い合い、冗談を言いながら街路を通り過ぎていく。 少女たちとすれ違っていく。 まるで、二人のことが見えないかのように。  少女は今や泣き叫んでいた。 腕から血を流し、顔をゆがめて悲痛な声を少年に突き刺す。 「違うの、こんなのじゃない、私はこんなに穢れてないの! ねえ、これは私じゃない、私じゃない! どうして私はここにいるの? 私っ、私はずっと空に行きたくて――」  腹への鋭い痛みに、少女の声が途切れる。 脚が体を支えきれずにくずおれ、少女は少年を見上げた。 口の端から血が流れ落ちる。 「あ……」  腹に刺さった紅く染まる刃からは、血が滴っていた。 人が変わったような冷たい目で、少年は少女を見下ろしていた。 彼に刺された、ということを理解するまでに十数秒の時がかかった。 「私……」  ぬめる手のひら。 目をやれば、腕も足もワンピースも、少女の下の地面さえどんどんと赤に染まっていく。 失血の寒気を感じながらも、赤で覆い隠された汚れに笑みが浮かんだ。 真っ赤な少女自身の血のおかげで、四肢に染みついていた泥はまったく見えない。 筋肉に力を入れることさえ困難になり、ぱたりと倒れ、力なく頬を緩めて少女は笑った。 「綺麗……。私、は、穢れてなんか――」 「穢れてるよ」  少年は容赦なく少女の言葉を遮った。 きっぱりとした否定に少女の身体がびくりと震えても、その冷徹さは揺らがない。 剣を振って刃の血を飛ばし、さらに布で丹念に拭ってから鞘に収める。 「勘違いしているようだから教えるけど、あんたは腐敗の大地に堕ちたから穢れたんじゃない。穢れていたからここに落とされたんだ」  
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加