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腹を押さえ、血だまりを広げながら少女は膝を抱えるように丸まった。
あえぎも小さくなり、声はか細く、注意していなければ聞き取れないほどである。
それでも人々は、二人に視線すら向けずに行き交うばかり。
「……嫌」
少年は、わずかな言葉さえ聞き洩(も)らさなかった。
「それが現実だ。今、そこで、無様に地面に転がっているあんたが現実なんだよ」
「痛い」少女の目から涙があふれ出す。「見たくない……」
ぎゅっと目を瞑った少女にかがみ込み、少年は彼女の肩をつかんでその身体を起こした。
うめき、鼻水を垂らして血を吐きながら少女は「痛い、痛い」と泣き喚(わめ)く。
その間も血は白いワンピースに赤い染みを広げ、流れ続けることを止めない。
少年の両手が、少女の両肩をつかんだ。
覗き込むようにして話しかけられているのを知りながら、少女はますます顔をうつむける。
「目を開けろよ」
見ないことは赦(ゆる)されない。
「そんなことしたってあんたは何も変わらない」
留まり続けることは赦されない。
「この世界は腐敗の大地、誰もが穢れている場所だ。屑(くず)しかいない場所だぜ」
少年の言葉から逃げたくとも、もはや少女に動く体力も気力もなかった。
脈打つ痛みが身体を支配し、思考も支配している。
肌に触れる空気すら、今の少女には棘のように痛かった。
命が脈動と共に流れ出ていく。
朦朧(もうろう)とする意識の中で、少女は少年が慎重に息を吸い込む音を聞いた。
「穢れは消せる」
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