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町を抜けて北へ、どこまでも北へ。
そうしてぶつかったところが、空への崖だ。
幾日も歩き続けた二人は、地上からその崖を見上げていた。
腐敗の大地において、唯一空につながっていると言われる場所だ。
あまりにも高く高くそびえたつその崖には、ちらほらと人の姿も見える。
「空に向かう人たちだ。幸いなことに道はある。あんたはただ、気が遠くなるような時間をかけてこの崖を登って行けばいい」
空を切る音に気付いた時には、衝撃音が鳴り響いていた。
思わず音のした方向に顔を向けると、一人の男性が乾いた地面に横たわり、ごろごろとのた打ち回っていた。
少年は冷静にその光景を見つめながら、少女に説明する。
「ただ、落ちることは何度でもあるだろう。空に到達できるのかもわからない。それでも、あんたは行くんだろう?」
真剣な眼差しに少女は頷いてみせた。
ずっとこのままだなんて我慢ならない。
少女は穢れをなくすために、空へ行くために、この崖を登る。
「貴方は?」
皮肉な笑みを浮かべて少年は首を振った。それはまるで自虐のようにも見える。
「俺は行かないよ。腐敗の大地で生きていくって決めたんだ。もちろん、あんたのサポートはするが」
唐突に腑に落ちた。
その時、少女は少年が「綺麗」である理由を確かに理解したのだ。
墜落者が行きつく先、腐敗の大地にあってなお、少年は毅然(きぜん)としている。
瘴気の中にあってさえ、彼は気高く在り続ける。
その在り方こそが、彼が「綺麗」である理由。
視界がぼやけ、口元が緩んだ。
泣き笑いながら「わかった」と頷く。
「やってみるよ」
「それがいいよ。大丈夫、見てるから。俺を信じて」
少女はもう一度強く頷き、ゆっくりと少年の手を離したのだった。
これから少女が向かうのは、遥か遠き空。
少女が焦がれた光。
穢れた身では到底行きつけない場所へ行くために、彼女は崖を登り始める。
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