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ぎしり、とベージュの鳥籠が軋む。
少女はそっと籠を構成する柱をつかんだ。
檻のような籠の中から外を見上げれば、一面に暖かな光が広がっている。
柱に顔を押しつけるようにして視線を下ろせば、煙のような雲が見えた。
少女の足元から下には、水彩絵の具を塗り込めたように鮮やかな水色の空。
ほう、とため息をつき、恨めしそうに光を見て、籠の隙間からそっと手を伸ばす。その手は、決して空には届かない。
鳥籠の扉を振り返る。
開けたことは一度もない扉だ。
開けようとしたことは何度もある。
扉の前に立ち、取っ手に手をかけ、そこで終わる。
何百回と繰り返したその動きは、すでに決められていた動作であるかのようにそこで止まる。
そうしてまた、檻の向こうに広がる空を見渡すのだ。
なぜその扉を開けないのかは、少女にもわからなかった。
何を恐れるわけでもない。だが、ドアノブに手をかけると、空への憧憬(しょうけい)は急激に薄れていくのだった。
きしっ、と鳥かごが軋む。
きしっ、きしっ、きしっ。
いつもは気にならないその音が、今日はやけに耳障りだった。
檻の柱を握りしめる少女の瞳に、もどかしさが揺らめいた。
くるりと振り向き、もう一度取っ手に手をかける。
きしっ。
不協和音が背中を押した。
予想していた手ごたえなど何もなかった。
待ち望んでいたかのように扉はするりと開いた。
目の前に広がるのは、何にも遮られない柔らかな光の空。
眼下の風景など、少女は見もしなかった。
焦がれてきた風景は目前にある。
いつしか少女の頬を涙が伝っていた。
手を伸ばし、足を踏み出す。
空を切る足、反転する視界。
黒い長髪がはためき、絡まり合った。
ひゅっと耳元で風が鳴る。
空が、遠くなっていく。
少女は音もなく鳥籠の外へと墜落を始め、眠るように意識を失った。
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