1 籠の中

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 ぎしり、とベージュの鳥籠が軋む。 少女はそっと籠を構成する柱をつかんだ。 檻のような籠の中から外を見上げれば、一面に暖かな光が広がっている。  柱に顔を押しつけるようにして視線を下ろせば、煙のような雲が見えた。 少女の足元から下には、水彩絵の具を塗り込めたように鮮やかな水色の空。 ほう、とため息をつき、恨めしそうに光を見て、籠の隙間からそっと手を伸ばす。その手は、決して空には届かない。  鳥籠の扉を振り返る。 開けたことは一度もない扉だ。 開けようとしたことは何度もある。 扉の前に立ち、取っ手に手をかけ、そこで終わる。 何百回と繰り返したその動きは、すでに決められていた動作であるかのようにそこで止まる。 そうしてまた、檻の向こうに広がる空を見渡すのだ。 なぜその扉を開けないのかは、少女にもわからなかった。 何を恐れるわけでもない。だが、ドアノブに手をかけると、空への憧憬(しょうけい)は急激に薄れていくのだった。  きしっ、と鳥かごが軋む。 きしっ、きしっ、きしっ。 いつもは気にならないその音が、今日はやけに耳障りだった。 檻の柱を握りしめる少女の瞳に、もどかしさが揺らめいた。  くるりと振り向き、もう一度取っ手に手をかける。 きしっ。 不協和音が背中を押した。  予想していた手ごたえなど何もなかった。 待ち望んでいたかのように扉はするりと開いた。 目の前に広がるのは、何にも遮られない柔らかな光の空。 眼下の風景など、少女は見もしなかった。 焦がれてきた風景は目前にある。  いつしか少女の頬を涙が伝っていた。 手を伸ばし、足を踏み出す。 空を切る足、反転する視界。 黒い長髪がはためき、絡まり合った。 ひゅっと耳元で風が鳴る。 空が、遠くなっていく。 少女は音もなく鳥籠の外へと墜落を始め、眠るように意識を失った。
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