3 罪人の町

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 涙も涸(か)れ果てた少女は、半ば足を引きずるように泥地を進んでいた。 空腹も眠気も感じない。 空は変わらず穏やかな光を大地に投げかけている。 少女の前方には町があった。 どこに行くあてもない彼女は目的地をそこに定め、ただ黙々と歩いていた。 暑さも辛さも感じない。 ただ、取れない汚れへの嫌悪感に顔をゆがめて足を動かし続ける。    ようやく辿り着いた町には大勢の人間がいた。 飾りだけの槍をもつ門番の横をすりぬける。 大あくびをする門番は少女を気にとめるふうでもない。 家や店が立ち並び、大人子どもが街路を行き交う。 人の熱気と喋り声、くすくすという笑い声が自分に向けられているように感じて、少女は足を速めた。  噴水のある広場へ出ると、少女は見えない壁にでもぶち当たったかのように足を止めた。 広場の中央にある噴水では、何人かの浮浪者たちが一心不乱に自らの身体を洗っている。 どうしても落ちない汚れを、ひたすら取ろうとこすっている。 円形広場のふちに沿うように並べられたベンチには、小汚い人々がぼろをまとって寝ていた。 何か月も櫛(くし)を入れていない髪には、清潔にしようという意思さえない。 彼らの肌が少女と同じように泥で汚れているのを見て、少女の膝が笑い始める。 心臓の鼓動が、やけにうるさい。 「違う……」  停止しかける思考でそれだけ呟き、少女の視線が時間をかけて、自分の手のひらへと移る。 変わらず落ちない泥、皮膚にすりこまれたかのようにとれない腕の汚れ。 束の間、少女はぎゅっと目を瞑(つむ)った。 「違う、私は、私はあんな人たちとは違う――!」  ぱっと目を開けた少女は、浮浪者たちを視界に入れる前に踵(きびす)を返し、街路を走り抜けた。 どこに行っても、人、人、人。 彼らに浮浪者たちと同じだと思われたくなくて、穢れていると思われたくなくて、少女は人目につかない場所を探して町を走り回った。  外に出る気はなかった。 この町の外に出たところで、少女には何もないのだから。
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