6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたがね、私の傘を、盗んだからよ。」
あの傘?女がずっしりと、女とは思えないほど重くなって、私は動けなくなった。女は私の目の前に、顔を近づけてきた。その瞬間、女の顔がドロドロと溶けてきた。
「うわあああああああ!」
私は、今まで出したことのないような叫び声をあげた。その瞬間に、叫んだ私の口から、溶け出した女が流れ込んできた。苦しい。
息ができない。
助けて・・・・。助けて・・・・。
私は意識が遠くなっていった。
「出社してこないし、電話にも出ないので、心配になって、アパートに来て見たら・・・。」
アパートの入り口には、同僚と警察官が二人、救急隊員は動かなくなった男を担架に乗せた。
その時、誰も気付かなかった。玄関の黒い傘を、白い女の手が握って、どこかへ行ってしまったことを。
数日後、驚くべき事実が、同僚や彼の親族に伝えられる。
「彼の死因は、溺死です。不思議なんですが、肺には水が大量に入っていたんです。お風呂にも、水は張っていなかったし、肺疾患も見られませんでした。何者かが肺に直接水を流し込んだとしか、思えないような状態でして。」
今日も、あの民家の軒先に、黒い傘は立てかけてある。
雨宿りを待って。
最初のコメントを投稿しよう!