6人が本棚に入れています
本棚に追加
次の朝、私はいつもの時間に起床し、真っ先にコーヒーを淹れ、コーヒーが入る間に、食パンにバターを塗って、トースターに放り込んだ。簡単な朝食をテーブルに運び、椅子に座ったとたんに私は飛び上がった。尻を触ると濡れている。
椅子の上がびしょびしょに濡れていたのだ。こんなところに水をこぼしたっけ?
私は濡れた下着とズボンをはきかえて、椅子を乾いたタオルで拭いた。その時までは、そんな些細な出来事は全く気にしなかったのだ。
ところが、私の生活の違和感を決定付ける言葉を同僚から聞くことになる。
「おい、お前、いつの間に彼女作ったんだよ、この~裏切り者~!」
同僚が朝、私の顔を見るなり、ニヤニヤしながら肩を揉んで来たのだ。
「彼女?なんのことだ?」
「まったまたぁ、惚けちゃって!俺見たんだよ、昨日。お前がさぁ、女の子と相合傘で帰ってるところー。ちくしょう、羨ましいな。あのあとどこ行ったんだよぉ。」
「昨日は、ずっと一人だった。一人で、定食食って、一人でアパートに帰ったけど?」
「あくまで惚ける気だなぁ?わかったよ。今度ちゃんと紹介しろよな。」
同僚は私の肩を、ぽんと叩いて自分のデスクについた。
昨日の定食屋と言い、今朝の椅子のことと言い、何かが変だ。
傘、相合傘?さっぱりわけがわからない。
その日の夜、眠りについてすぐに、部屋に違和感を感じて目が覚めた。
目が暗闇に慣れると、私の足元に青白い女が立っていた。幽霊?私は怯えた。
しかし、マジマジと見ると、足がある。私は勇気を出して、聞いてみた。
「だ、誰だ!」
女からは水が滴っていた。髪の毛、ワンピース、細い腕、真っ白な顔。全身ずぶぬれだった。
私はもう一度、勇気を振り絞った。
「いったい誰なんだ。ずぶ濡れじゃないか。どこから入ってきたんだ!」
「私はアマヤドリ。昨日からずっとここに居る。」
女はそう言った。アマヤドリ?それは名前なのか?わけがわからない。私は昨日は一人だった。
そして女は虚ろな目で、私を見た。
「どうして、私がずぶ濡れかわかる?」
私にそう聞いてきた。
「し、知るもんか、そんなこと。警察呼ぶぞ?出て行けよ!」
私は女を威嚇した。すると、私の布団にいつの間にか女がするりと入ってきた。
私は、心臓が止まりそうなほど驚いて、女のような悲鳴をあげた。女の体はずぶ濡れで
氷のように冷たかった。
最初のコメントを投稿しよう!