第一章

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「それで。どうして、今更、実家に帰りたいなどと言い出した」 ファウストは妻のエヴァンも遠慮するプライベートな書斎に連れ込み、ソファーに座って話の続きを促した。 「先日、私に荷物が届いたのはご存知ですよね」 「確か、お前の兄、ミカル殿からだったな。それがどうした」 「だからです」 さも当たり前のように言い切られても、ファウストには、ちんぷんかんぷんだ。 「そんなのでわかるか。最初から順を追って説明しろ」 「どうしてわからないのかが、わかりません。荷物の中身を覚えていないのですか」 ヨシュアに関する郵便物を本人に渡す前に全て検閲しているのは、お互いに承知しているところだ。 「いつもの問題集だったではないか」 スメラギ家から毎月お小遣いを支給されているヨシュアは、代価として課題の提出を義務付けられている。 「違うといえば、いつもより量が多かったくらいだろう」 「そう、それです! すっかり忘れてましたが、もうすぐ定期試験の時期なんです。受けなければ落第してしまいます」 「ああ、ヨシュアはまだ学生だったな。これを機会に、いっそのこと退学したらどうだ」 「ありえない。そんな事、考えられるわけがないでしょう! 俺が、共学の苦痛にどれだけ耐えたと思ってるんですか。それもこれも、全ては卒業証書を受け取る為なんですよ!」
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