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鈴音が躊躇していると、こっちを見つけられないのだと勘違いした春一が、今度はダッシュで駆け寄ってくる。
「どうした? みんな待ってるぞ」
さりげに鈴音の手荷物を代わりに持つ気の配りよう。
鈴音に刺さってくる女の子たちの視線が夏の紫外線よりも痛い。
そんな中、
「鈴音の水着姿、よく似合ってる」
真面目な顔で春一が言った。
鈴音はつい耳まで真っ赤になってしまう。
こんな公衆の面前で、いきなり何を言い出すのだ、この人は。
まだ恋人だった時の春一なら、口が裂けても言わないセリフだ。
だけど婚約してから鈴音は知ることになった。
春一は、身内にはとことん甘くなる。
無条件で褒める、喜ばす、持ち上げる、をやってくれる。
甘いセリフを恋人相手には囁かないクセに、家族には平然と口にするのが春一だったのだ。
「うん、すごく可愛いな」
今こう言うのも、鈴音が家族になったからだ。
上から下まで、春一の涼しげな瞳に眺めまわされ、鈴音はその場にしゃがみ込みたくなるほど恥ずかしくなった。
春一の無自覚天然タラシぶり、弟たちの誰でもいいから止めて欲しい。
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