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するともう一方のビーチチェアに春一はストンと腰を下ろしてしまう。
「春さんは泳ぎに行かないの?」
鈴音が尋ねれば、
「運転で疲れたから、俺は一休みしてから行くよ。荷物を見てるから鈴音は泳いでくるといい」
それからご丁寧にも、
「夏樹、鈴音を頼むぞ」
夏樹に念を押していた。
「へーへー」
夏樹は不真面目な返事を春一にしている。
何を頼むんだと言いたいのだろうが、先にも言ったとおり、来生家の弟たちは長兄にはけして逆らわない。
そこで鈴音が夏樹の気分を代弁して、
「もう、春さんてば過保護なんだから。私なら大丈夫ですよ。それより心配なのは冬依くんの方でしょう?」
冬依はまだ中学生だ。
海に来るにはまだ保護者の監視が必要な年齢。
とっくに海に向かっている年少組のふたりを探して目をやれば、秋哉はもとより冬依まで、クロールしながらテトラポットに向かって泳いでいる最中だった。
水しぶきを蹴たてながら、ものすごいスピードで岸から遠ざかっていく。
あまりに見事なふたりの泳ぎっぷりに思わず目をむく鈴音に、春一はくすくす笑いながら教えてくれた。
「あいつら、泳ぎは得意なんだ」
確かに、残りの夏樹と春一が泳げないとは思えないから、この中で一番心配なのは鈴音だろう。
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