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夏樹はと言えば、背泳ぎの要領で海面にぷかぷかと浮いている。
鈴音がいる場所からも、あまり遠く離れようとしない。
春一の命令を律儀に守っているのかと気を使って、
「夏樹も泳いでくればいいのに」
と声をかければ、
「いーや、面倒臭いからここにいる」
妙なことを言う。
怪訝な顔をする鈴音に、
「俺が独りでいると女の子たちが集まってきてうるせーの。今日はナンパなんかしたら、後で春から大目玉くらっちまう。だから鈴音は俺の虫よけよ」
しゃあしゃあと言い放つ。
男女逆転の言われ様だが、夏樹が口にすれば冗談に聞こえないところが悲しい。
それにしても夏樹の相手役だなんて、
「私じゃ役者不足で悪かったわね」
鈴音がイヤミを口にすれば、夏樹はふんと鼻を鳴らして、
「よく自分が分かってるじゃねーか」
平然と返された。
『一応これでも、あなたのお兄さんに選ばれてるんですけどねっ』
鈴音の強がりは口にすると惨めすぎるので、腹の中だけでぐっと堪えた。
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