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顔を逸らせた先に水しぶきをあげて迫ってくる主を見つけると、
「ほら、本当の相手のお出ましだ」
鈴音の耳元で、夏樹は低く教える。
夏樹が示す方に顔を向ければ、春一がものすごい勢いでこっちに泳いでくるところだった。
春一は瞬く間に夏樹と鈴音の側まで泳ぎついて、
「鈴音、大丈夫かっ」
必死の形相で声をかけてくれた。
鈴音は、
「う、うん」
思わずうつむいてしまいながらも何とか答える。
すると春一は、
「ごめん鈴音。助けてやれなくて」
眉を寄せながらすまなそうに謝った。
それから、
「鈴音こっちに」
腕を伸ばしてくれる。
――でも。
鈴音は、ためらった。
今溺れたばかりのせいか、海が怖い。
しがみついている夏樹から離れるのが怖い。
そしてさっきの、デレデレした様子の春一の顔が、ふと頭に浮かぶ。
顔をあげて春一の目を見ることができない。
「……」
夏樹の首につかまったまま、黙ってしまう鈴音に、春一は何かを察したのか、
「先に岸に行っててくれ。俺は浮き輪を拾ってくる」
鈴音が流した浮き輪を取りに泳いで行ってしまった。
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