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春一に叱られて、秋哉は素直にビーチサンダルをパタパタさせて駆け戻ってきた。
そのタイミングでのんびりとサイドドアから顔を覗かせるのが四男の冬依。
秋哉とは対照的に真っ白の肌をしており体つきも細っこい。
車から降りてくるさまも優雅に緩やかで、まるで避暑にやってきた美少女と見紛うくらいだ。
「秋兄、クーラーボックスなら後ろに乗ってる」
ハッチバックドアを示されて秋哉が車の後ろ側に回れば、ドアが自動でゆっくりと開いていく。
車のトランクにドンと居座っている特大のボックスに手を伸ばせば、
「ご苦労さん」
秋哉の頭の上から艶めかしい声がかかった。
三列目のシートに寝そべり、それでも長さが足りないので膝を曲げて座らなくてはならない長身の持ち主。
今は上体を起こして背もたれに腕をひっかけ、荷物を取りに来た秋哉を頭のてっぺんからダラリと見下ろしている。
トロンとした目つきが妙に色っぽい、赤い髪をした次男の夏樹だ。
昨夜は仕事で徹夜になり、一睡もせぬまま今日の参戦。
海に付くまでの道中、ずっと後部座席で眠っていた。
ボタンを止めていない絹のシャツが肌を滑って胸元をあらわにし、思わず目を逸らしたくなるほど色気たっぷりだが、相手が弟の秋哉だとまったくのフェロモンの無駄遣い。
「なーに寝ぼけたツラしてんだよナツキ。もう着いたぜ」
秋哉はそう言い捨て、飲み物がギッシリと詰まったクーラーボックスを軽々と担ぎあげた。
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