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そのまま冷たい浮遊感を味わっていると、大きめの波がやってきた。
ザブッと、不覚にも頭からかかった塩水はセットしてきた髪を台無しにする。
多少バランスを崩したが、大したことはなくすぐに元の体制に戻った。
今のには彼らも騒ぐことだろう、と友人たちを見る。
予想通り、楽しそうな叫び声が聞こえてきた――が、すぐに静まり返った。
何事だろう、と思うとどうやらこちらを指さしている人がいる。
そしていくつかの単語が聞こえてきた。
「――ヤバい――どうしよう」「――――レイ――」
途切れ途切れに聞こえる言葉の中に引っかかるものがあった。
“霊”
まさに今の季節にぴったりの、そしてこの場所にもよく似合う言葉だ。
『お盆に海に入ったら、足を引っ張られちゃうからね』
泳ぎに行きたいと駄々をこねる幼い私に、母が言ったセリフが浮かんできた。
まさか、とあり得ない想像を巡らす。
ふいに視界の端に映った、水面の黒い影にびくつく――が、それはもちろん自分自身の影である。
驚かせやがって、と自分に向けて鼻で笑う。
しかし向こうではいまだ緊張感の走ったようなざわめきが起こっていて、友人たちの間でどんどん広がっていっているようだ。
ゾク――と背筋に寒気が走る。
いやそんな、気のせいだ。
私は自分に言い聞かせるように小さく呟く。
だってほら、何にも居ないよ。
再び水面を覗き込んだ。
やっぱり何も……。
――無い。
とある事に気が付き、私は一気に背筋を凍らせた。
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