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友人の持ってきてくれたタオルを胸に巻き、どうにかこうにか私は陸へと近づいていく。
首までは行かずとも、胸までは沈む深さの場所だったから、浮き輪を使っていた事が不幸中の幸いだろう。
砂浜にもうすぐそこまで近づき、もう浮き輪を取ってもいいかな。と思った瞬間、クンと浮き輪が後ろに引かれた。
しかし振り向いても誰も居ない。
友人は斜め前にいるから、変な波でも起こったのかと気にせずそのまま進んだ。
海から上がり、湿った砂に足をつける。
長い間浮かんでいたせいか、何故かバランスがうまく取れない。
今まではこんな事起こった覚えが無いのに、とトランポリンで遊んだ後に飛び跳ねようとした時ような、妙な気だるいような違和感に眉をひそめる。
当たり前にできる足の動きが妙に難しい。
懐かしの、プールで着替える時に使うタオルを、また別の友人が持って小走りで近づいてきてくれる。
私は家が近く水着のままで来てしまったから、着替えが無いのだ。
ありがとう、と受け取るために手を伸ばした。
その時視界の隅に、影が見えた。
水面に映る黒い影は、私の影の浮き輪を掴んでいるように見えた。
脱ぎかかっていた浮き輪を、迷わず外し、そして海へ放り投げた。
「何してるのー?」
不思議そうに友人が尋ねてくる。
浮き輪は思ったよりも早く沖へと向かって流れていった。
何でもないよと返し、タオルを受け取った。
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