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サイサが鷹の精霊を感じ取ったのはこれで五度目だ。依頼で行く場所に鷹の精霊は必ず遅れてやって来る。
つまり、相手はシュバルツが受けた依頼場所を知っていて、精霊を使役する人物。
街の外で見たシュバルツの様子から、ギルド関係者である可能性が高いとサイサは考えた。
ここでギルドマスターという答えが出ないのは、そもそもサイサがギルドという施設の事をよく知らないという事が大きい。
サイサに取ってギルドとは、なんかよく分からないけどお金が稼げる所、程度である。
そして、問題は何故シュバルツがマークされたのかだが、サイサにはもうその答えが分かっていた。
詰まる所、シュバルツに描いた仮契約の魔法陣、そこから漂う精霊の力に感付いたのだろう。
そこまで考えて、サイサは足を止めた。
直後に背中に衝撃が走ったが、サイサは微動だにしない。この程度の衝撃など無いに等しいのだ。
「~~~っ!ってて、いきなり止まるなよな」
追い掛けっこ(シュバルツは遊び感覚ではない)の途中で急停止され、サイサの背中に衝突したシュバルツは撥ね飛ばされ、強かに打ち付けた腰を押さえながら苦言を述べた。
それを無視して、サイサは空を見上げた。
既に時刻は夕方に差し掛かり、紅に染まる空、地平線の彼方へと消えていく太陽を平然と直視して、サイサは呟きを漏らした。
「……潮時、かな?」
「あぁ?何が?つか無視かよコラ」
「なー、シュー」
「なん?」
「魔法に理屈や原理とか、そんなのは本当に無いんだ。ただ強く願って、ただ強く信じて居れば、後は魔力が叶えてくれる。精霊はただ、そこに疑問を挟まないんだ。一言で言うなら純粋かな」
「説明されたな。なんだよ改まって」
「人間は本当に面倒だ。理屈がないとなんにも信じようとしない。原理を解明しようとして屁理屈を作り上げる。本当に、面倒だよ」
サイサはシュバルツの方に向き直る。
その瞳は近くを見ているようでいて、遥か彼方を見ている様だとシュバルツは思った。
「シュー」
サイサはただ一言、呟いた。
「忘れろ」
ブツンッ!!っと、何かが引きちぎられた音が頭の奥で鳴った様な感覚に陥り、ぐらりとシュバルツの体が揺れる。
踏み止まったシュバルツが前を見ると、そこには誰も居なく、シュバルツは疑問符を浮かべながら帰路についた。
そこに居た筈の誰かの名前を呼ぶことなく。
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